フランスの美食家で食への哲学を記した「美味礼讃」で知られるブリヤ・サヴァランが「チーズの王」とたたえたのが、エポワスチーズです。
エポワスは、16世紀のはじめにエポワス村に住みついたシトー会の修道僧たちが作り始めたと言われています。修道士たちがこの地を去る時に農家の人々に製法を伝え、その後、改良が繰り返されて多くの農家が生産するようになりました。
しかし、2度の世界大戦の影響で作り手が居なくなり、絶滅の危機に瀕しました。
１度目は、第二次世界大戦で農家が焼け、エポワスの生産者が激減してしまいました。その状況を憂いた小さな農家のベルトー(Berthaut)夫妻がエポワスの復活のために立ち上がり、夫妻は、昔ながらの製法を知る農婦たちから学んで見事にエポワスの復活に成功させたのです。
そして、２度目は、1999年にエポワスの生産者の一人が作ったチーズがリステリア菌という病原菌に汚染され、これが原因で他国での輸入が停止したり、エポワス自体の生産が激減するという事態が起きました。
この騒動で、それまで無殺菌で作られていたエポワスは殺菌乳による製造へと切り替えることで、存続の危機を乗り越えました。

マール・ド・ブルゴーニュで洗われたエポワス。
ブルゴーニュワインとの相性は言うまでもありません。パンに塗ってトーストにしたり、ソースにアレンジしてもおいしく召し上がっていただけますが、ツヤのあるトロットロの食感を楽しんでいただくには、加熱せずにスプーンで掬ったままを味わっていただくのが一番のおすすめです。